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議論を噛み合わせるには〜『議論を分けてすすめる』編

議論が噛み合わないで困っていませんか?

この問題は何も業務改善プロジェクトに限ったことではありませんが、通常業務に比べ、いわゆるプロジェクトでは未知の領域に踏み込むことで圧倒的に議論の機会が増えることから、議論が噛み合わないことは普段以上に大きな問題となります。議論が噛み合わないと、生産性が低くなるどころでは済まず、心理的に苛立ち、プロジェクトチーム内の対立にもつながってしまいます。今回は、噛み合う議論の仕方についてお話ししていきましょう。

噛み合わせを良くするためのポイントはズバリ2つ!「議論を分けてすすめること」と「議論の見える化」です。

まずは、「議論を分ける」について考えてみましょう。たとえば、業務上どのような問題が生じているのかという質問に対して、「発送指示書が物流部にくるのが遅い時がしばしばあり、商品の配送や請求書送付が遅れ、お客様のクレームにつながる」という回答があったとしましょう。この回答を聞いたとき、あなたはどのように感じましたか?「ふむふむ、なるほど・・・」ではなく、この例では以下のような3つの問題が1つの文章に封じ込まれていることに気付きましたか?

・発送指示書が物流部にくるのがしばしば遅れる(A)

・商品の配送や請求書送付が遅れる(B)

・お客様からのクレームが発生する(C)

では、これらの問題をひとまとめにするのではなく、3つの要素に分けて考えないと議論が噛み合わなくなるのはなぜでしょうか?

この3つの要素をA、B、Cとしましょう。ABCの要素をすべて1つの文章にしてしまうと、言い手は、A-B間、B-C間の因果関係を無意識に肯定してしまいます。そのため、聞き手が2箇所の因果関係のうち1つでも疑問に感じた場合の議論が複雑になってしまうのです。実際、この2つの因果関係には間違いがあるかもしれません。お客様からのクレームは、配送や送付の遅れが原因ではないかもしれません。普段から配達員の対応に不満をもっていたお客様が遅延をきっかけにクレームをしたのかもしれませんし、発送の遅延のうち指示書到着の遅れを原因とするものは10%程度しかないかもしれません。ですから、事象として現れる「指示書の遅れ」「発送などの遅れ」「顧客のクレーム」を別々に議論し、次にそれぞれをつなぐ因果関係を議論しておかなければ、そもそもの前提から各人の立ち位置が違ってしまい、議論が噛み合わなくなるのです。

具体的に考えてみましょう。「発送指示書が物流部にくるのが遅い時がしばしばあり、商品の配送や請求書送付が遅れ、お客様のクレームにつながる。」という発言に対しては、

・「指示書の遅れ」はどのくらいの頻度?どのくらいの遅延?何か特徴的なことは?

・「発送などの遅れ」はどのくらいの頻度?どのくらいの遅延?何か特徴的なことは?

・「顧客のクレーム」をどのくらいの頻度?どのくらいの遅延?何か特徴的なことは?

と事実を客観的に把握し、次に、

・「指示書の遅れ」は「発送などの遅れ」を必ず引き起こすの?「発送などの遅れ」は「指示書の遅れ」がすべて原因?

・「発送などの遅れ」は「顧客のクレーム」を必ず引き起こすの?「顧客のクレーム」は「発送などの遅れ」がすべて原因?

と因果関係を【必要】+【十分】の関係から調査します。

議論をすすめる際には、このように、問題を分けることが大切です。問題を大きくまとめて捉えると、どんぶり勘定のように中身が見えなくなり、論点がボケてしまいがちですが、要素に分けることで、論点を1つずつクリアーにしていくことができるのです。

さて、ここまでは、発言(文章)を要素ごとに分けるという例についてご説明してきましたが、「分ける」には、もう1つ別の視点があります。それはプロジェクト全体をいくつかのフェーズに分けて議論するという方法です。

通常、当社のコンサルティングでは、業務改善プロジェクトを実施する際に

問題発見⇒問題確認⇒目標設定⇒原因分析⇒解決策立案⇒解決策評価⇒計画立案⇒実行⇒評価

という9つのステップに分けてすすめていきます。しかし、この分け方が絶対なのではありません。重要なことは、プロジェクトが、メンバー間で共有された「ある程度」合理的なステップに区切られていることです。業務改善に成功していることで有名な企業にはそれぞれ独自のステップがあり、それを社内の共通のルールにしています。

では、このプロジェクトのステップ分けがもたらすメリットを考えてみましょう。先ほどの「文章を分ける」と概念的には同じなのですが、自分たちの議論すべき焦点が明確になるということが、ステップ分けのメリットです。ステップに分けることで、自分たちが目標設定をしているのか、原因分析をしているのか、改善案を検討しているのか、という自らの立ち居地を明確にして議論ができるのです。

私たちがコンサルティングをしていると、現場で実際に業務に携わっている方々が、原因分析と解決策をセットでお話しする場面によく遭遇します。これは、長年の業務の中で自分なりに【原因】+【打ち手】の仮説をしっかり持ってきたからこそですが、一方で、この2つをセットしてしまうと議論の焦点がボケてかみ合わなくなります。

「うちは下請けで利益率が低いので(原因)、元請けの仕事を増やして利益率をあげないといけない(打ち手)」といった話です。このような意見に対して、「下請けでも利益率をあげる方法はあるし(打ち手への疑問)、そもそも売り上げの8割は下請けだが、利益の8割は元請けビジネスで我が社は下請けといえるのか(原因への疑問)」といった意見が出たりします。この時点で既に論点は2つです。そして次に、「元請になるには、エンドユーザーへの認知度をあげる必要があるので、積極的な広告を打つ必要がある(原因を肯定し、打ち手への別案)」などの話がでてくると、その議論は、まず間違いなくそのまま空中分解してしまいます。

自分にとってどんなに、「ステップを貫くストーリー」が明確に見えていても、ステップ内で切り離し、ステップに沿って話をすすめることが大切です。

そしてまた、プロジェクトをステップで分けていくと、区切りの間で小休止ができるので、精神衛生上良いという点も見逃せません。たとえば、あなたが広大な畑を耕すことを考えて下さい。この広大な畑にいきなり入り込み鍬を振りだすのと、その広大な畑を10個の区画に分けて、今日は区画@をやるぞと決めて鍬を振り出すのではどちらが精神衛生上良いでしょうか?もちろん、後者ですね。実は生産性も後者の方が良くなるという実験結果があります。このように小休止(=区切り)を明確にして、そこで小さな打ち上げをすることなどで、成功の実感・達成感が得られます。それが結局は、チームの活気を保ち、しかも生産性を落とさずにプロジェクトを進めていくことにつながるのです。

今回は、議論の空中分解を防ぐために「分ける」ことの大切さに触れました。次回は、議論を「見える化」することを取り上げましょう。


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