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レポート・コラム

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業務効率を落とさないワークシェアリングの導入方法

未曾有の不況到来が危惧される昨今、ワークシェアリングの導入について議論される機会が増えています。ワークシェアリングについては、その定義をはじめ、色々な視点から色々な意見がだされていますが、本コラムでは「業務効率を落とさないワークシェアリングの導入方法」について、書き進めていきます。

昨今、議論の中心になっている「雇用確保」のみならず、「多様な就労機会を作る」目的においても、どのように業務効率を落とさずにワークシェアリングを実現するかは重要な論点の1つですが、この部分に対する解説、指南書、セミナーは少ないようです。
このコラムが、ワークシェアリング導入において、生産性確保の視点で皆様の役に立てば幸いです。

ワークシェアリングとは何か

まずは「ワークシェアリング」の定義をしておきます。
「1人の働き手が実施している仕事を、2人以上の働き手が分担し、延べ時間数としては、ほぼ同程度で実施すること」と、このコラムでは定義します。

このワークシェアリングを単純なモデルにして考えてみましょう。
下図のケース@では、一連の仕事の流れでAさんが仕事2と仕事3を実施していますが、これをAさんとBさんの二人が分担、つまりワークシェアリングする場合を考えると、ケースAとケースBの2パターンが想定されます。


ワークシェアリング図1


このように、ケース@から、ケースAまたはケースBに移行することを考えると、それぞれのメリット・デメリットはどのようになるのでしょうか?
一覧表に整理すると以下のようになります。


ワークシェアリング図2


まず、一番に思い浮かぶのがBさんへの「引継ぎ」でしょう。@の場合はそもそも引き継ぎが発生しないので引継ぎの負荷はなく上表では「○」です。一方で、@⇒Aの場合はBさんに仕事3の引継ぎをする必要があり「△」、@⇒Bの場合、Bさんに引き継ぐべき仕事は2つあり、もっともデメリットが大きくなります。

次は「稼働時間」です。ワークシェアリングは「延べ時間数としてはほぼ同程度」と定義しているので、Aの場合は仕事2と仕事3が半日毎になってしまいます。お客様からの照会事項への対応が仕事であれば、「週前半のみ回答しております」となってしまい、これではデメリットが大きくなってしまいます。

では、「情報共有」についても考えてみましょう。情報共有とは簡単にいえば「申し送り」です。これは@であればAさん一人で完結するため申し送りは不要なものの、Aであれば仕事2と仕事3の間に申し送りが発生し、Bでは仕事2と仕事3を流れる1つ1つの取引(トランザクション)の申し送りの必要性が生じ得ます。つまり、@ABの順に申し送り回数と項目が増えてしまいデメリットが拡大します。
ここまでの3項目を見たところ、ワークシェアリングはデメリットが多く、明らかに@のまま(ワークシェアリングしない方)が良いように見えます。

では、次に「段取り」を考えてみましょう。これは分業の利益(チャールズ・バベッジ(1791-1871年);が発表)といわれるものの1つの視点です。通常、1つの仕事を開始するには段取りが必要で、@⇒Aのような分業体制に移行すると段取り時間が短縮されるというものです。例えば、仕事2はネクタイを締めてするが、仕事3は作業着を着てする場合、着替え時間が段取り時間となります。

続いて、「欠勤対応」を考えてみましょう。担当者の病気や不慮の事故による欠勤への対応のし易さという点では@のままよりもBのケースでメリットが大きいことが分ります。

最後に「競争環境」について考えてみましょう。この点は見落とされがちですが生産性を考えるときには大切な視点です。同じ仕事を複数の人がやると比較することが容易になるため競争環境が生まれやすくなります。この視点ではBでメリットが生じます。

この「段取り」と「欠勤対応」と「競争環境」を含めて考えると、下表のようにワークシェアリングにもメリット(効率向上)があることが分ってきたと思います。
※ 単純化した例で考えてきましたが、2人以上の仕事を3人以上で分割するなど様々な応用ケースでも基本的な考え方は違いません


ワークシェアリング図3


さて、これから、デメリットを最小化しメリットを最大化するワークシェアリングの導入方法を考えていきますが、その前に、AとBのどちらが優れた(業務効率の高い)ワークシェアリング方法なのか考えてみましょう。皆さんはどちらだと思いますか?

業務改善が十分にされ尽くした業務現場ではBをお勧めしますが、そうでない(改善余地が残っている業務現場)ならばAをまず優先して導入することをお勧めします。前出のチャールズ・バベッジは分業のメリットの中で、業務を分割することで簡単な仕事を単価の安い人に移行し業務コストを下げられることを指摘していますが、この改善手法はAの分業方法で使えるわけです。

ワークシェアリングの導入方法

話が若干脱線したので戻しましょう。
これから、ワークシェアリングが持つデメリットを最小化しメリットを最大化する導入方法を考えていきます。導入方法は次の5つのステップです。

(1) 現状の業務プロセスを理解する
(2) 無駄な仕事を減らす
(3) ワークシェアリングできる仕事を探す・作る
(4) 業務マニュアルを作る
(5) 指標を設定して遂行状態を計る

それでは順番に考えていきましょう。

(1)現状の業務プロセスを理解する

これからワークシェアリングの対象にしようとしている業務が、どのようになっているのか理解できていなくては話が始まらないので、まず、業務プロセスの見える化をする必要があります。通常は業務フローチャートを作成することで見える化を実現していくわけですが、

・ 業務フローチャートは作成に労力と技量を必要とする
・ 作成しているうちに線がこんがらがって意味不明になる
・ イレギュラーな業務処理が書ききれず現状把握には役立たない

などと考え躊躇されている方には、株式会社プロセス・ラボが開発した新しい業務フローチャートの書き方(プロラボ・メソッド)により見える化することをお勧めします。

プロラボ・メソッドについては下記の2つのサイトに連載をのせておりますので参考にしてください。

ビズハック:簡潔に読みやすい分量でまとめています
情報マネジメント:専門的な方を対象に詳しい内容を記載しています

(2)無駄な仕事を減らす

このステップはワークシェアリング導入方法の趣旨からズレて業務改善の話になりますが、本コラムを読んでいただいている皆様の会社でも業務改善の余地はあるだろう・・・という前提の下、ごく簡単な改善方法に触れておきます。

もっともシンプルで且つ効き目のある改善方法は「無駄な仕事を止める」ことです。具体的には次の2つのアプローチが有効です。

まず、業務プロセス上で作成されている資料や帳票類を業務フローチャートから探し出し、それらの資料類を誰が参照しているのかを確認し、参照している人に「この資料or帳票がなくなったら困るか?」を聞くことです。困らない、困るかどうか不明という返答を得たらならば、その資料類の作成を止めるべきです。このように無駄な資料類の作成自体を止めることが1つ目のアプローチです。

次は、イレギュラー処理の廃止を考えるのが2つ目のアプローチです。業務フローチャートを眺めると、場合分けによって分岐で表現されている様々なイレギュラー処理があるはずです。お客様の属性や仕入れ業者毎によって異なっている書類フォーマットや作業手順などによる違いです。これらのイレギュラー処理は80:20の法則(パレートの法則)に照らして廃止を検討しましょう。つまり、イレギュラーの80%はたった20%の取引しかない(大部分のイレギュラーはほとんど発生しないから、イレギュラーというのですが・・・)のです。このような頻度が低く、しかも通常は利益への貢献も少ないイレギュラー処理を、十分な調査と検討を踏まえ「勇気をだして」廃止しましょう(勇気を出して捨てるものを選ぶことは、業務プロセスの標準化の鍵です)。

「無駄な仕事を止める」2つのアプローチ以外に、ワークシェアリング導入に際して、同時に業務改善を本格的にすすめたいと考えている方には、下記の連載をお勧めします。

情報マネジメント:「現場主導で進める業務改善の手法」

(3)ワークシェアリングできる仕事を探す・作る

仕事の流れを見える化し、無駄を省いたら、次にワークシェアリングできる仕事を探す、または作り出すことを考えましょう。

そもそもどのような仕事がワークシェアリングの対象になりえるのかというと、暗黙知をあまり必要としない仕事です。「(1)現状の業務プロセスを理解する」で紹介したプロラボ・メソッドによる業務フローチャートでは、業務上で何かのアウトプットを作成する際にインプット(つまり参照されているもの)が何かを明記する手法となっているので、そのインプット元が「記憶」になっている仕事はワークシェアリングの対象になりにくいことが分かります。

ただし、現時点でのインプット元が「記憶」になっているものでも、形式知化することができないか検討してみる必要はあります。例えば、現時点ではお得意先から注文を受け付ける際に、以前の注文内容を記憶しておくことが必要であった仕事を、注文履歴データという形式知化された参照元を用意することで、ワークシェアリングの対象となりやすい仕事に変えることができます。

(4)業務マニュアルを作る

次はいよいよ業務マニュアルの作成です。

業務マニュアルはミスやトラブルを減らしてくれるだけではなく、引継ぎの負荷を軽減してくれます(ワークシェアリング導入時以外でもその効果は高いのです)。
しかし、このようなことは誰でも分かっているにもかかわらず、業務マニュアルが導入され、上手に機能している業務現場は少数です。なぜ、業務マニュアルは作られず、作ったとしても使われないのでしょうか。

私はこの疑問に対して4つの要因を仮説として持っています。

(ア) 全部を一度に作ろうとするから、作ることに着手できない(重い腰が上がらない)
(イ) 仕事が標準化されていない(&頭の中が整理されていない)から作れない
(ウ) 使いにくいから使わない(自分でノートに書いたものなら見る)
(エ) 業務ローテーションが少なくベテランが多いので使う必要がない

このうち、(ア)(エ)については、必要な部分を必要なときに作成することができて、しかも全体の調和が乱れない業務マニュアルの形式であれば解決するでしょう。

また、(ウ)の「使いにくい」についてはなぜ使いにくいのかを突き詰めると、「業務で困ってしまい、業務マニュアルを見ようとしたけれど、どこに書いてあるのか分からない」に行き着くと考えています。一方でこの原因を業務マニュアルのフォーマットが統一されていないからと考える人もいるのですが、ISO導入済み(フォーマットが統一された業務マニュアルを保有する)職場でも、必ずしも業務マニュアルが機能していないことから、フォーマットの統一が主要な原因ではないようです。

(イ)については、「(1)現状の業務プロセスを理解する」において業務フローチャートを作成する時点で整理がされます。

これらの点を踏まえ当社では、業務フローチャートと連携する、業務マニュアルの形式を提唱しています。業務フローチャートに記述される1つずつの作業(フローチャートの最小構成単位)に対して、業務マニュアルを1つずつ付けるという形式です。業務フローチャートは仕事を見える化し標準化するツールとして活用し、作成後は業務マニュアルの索引となるのです。そして、索引体系がしっかりしているため、業務マニュアル作成の必要が生じた際に、1つずつ業務マニュアルを追加していくことが可能になります。

(5)指標を設定して遂行状態を計る

業務マニュアルが完成したら、早速ワークシェアリングを開始しても良いのですが、ワークシェアリング導入のメリットを最大限に享受するために「指標を設定して遂行状態を計る」を手がけましょう。

指標とはいわゆるKPI(Key Performance Indicator)のことです。KPIという言葉は知っているが、具体的にどのように業務現場で設定するか分らないというかたも多いでしょう。ポイントは計る「対象物」と「視点」を決めることです。対象物をアウトプットと当社では呼んでいますが、業務現場で加工、生成される書類や帳票類、入力されたデータベースの状態と考えてください。このアウトプットのうち、業務上重要なものを探し出し、それを精度、速度、費用の3つの視点のいずれか(ないしは2つ以上)から設定します。

例えば、「お客様から入会申込をいただき、入会手続き完了を示すデータが入力される(このときのデータベースの状態がアウトプット)までの所要時間(速度という視点)をKPIとして設定する」というようにです。
このKPIをワークシェアリングする業務に設定し測定することで、今まで一人でやっていた退屈な仕事も、競争しながら成果を競える張り合いのある仕事になります。

以上が5つのステップです。

(1) 現状の業務プロセスを理解する
(2) 無駄な仕事を減らす
(3) ワークシェアリングできる仕事を探す・作る
(4) 業務マニュアルを作る
(5) 指標を設定して遂行状態を計る

如何でしたか?
生産性におけるワークシェアリングが持つデメリットを最小化し、メリットを最大化する実際の導入方法は具体的にイメージできましたか?
皆様の会社のワークシェアリング導入において、本コラムが役に立てば幸いです。

本コラムへの感想、質問などは当社メールアドレスに送付ください。

株式会社プロセス・ラボ
代表取締役 松浦 剛志



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コラム情報

様々なビジネスシーンで活用される「業務フローチャート」ですが、業務フローチャートを正しく活用できているでしょうか?作成にばかり手間を取られ、肝心の業務フローチャート活用にはあまり時間を掛けていない。こんな状況ではないでしょうか。本コラムでは真の意味で業務フローチャートを使いこなす方法を松浦剛志氏に解説いただきます。